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高田クリニックコラム

column

カルテ⑪ 初夢 1999年 1月号 蔵の街クリニック原稿 原稿

高田クリニックコラム

 

2020.11.30

「おめでとうございます。」
「おめでとうございます、今年もよろしく。」
「おでかけですか。」
「新年会です。」
「電車なら飲んでも安心ですね。」
「ええ。」
私は、万町3丁目の停留所から岩舟行きの電車に乗った。
車内は、運動公園で凧揚げをしてきた子供達や年始回りの人達で賑わっている。
倭町から、Xさんが乗ってきた。赤ちゃんを連れて大平の親戚に行くという。
ベビーカーごと乗り込める低床車は車椅子利用者や高齢者にも当然好評だ。
中心街で店を開くXさんは、この電車ができて中心街を歩く人が増えた郊外に引っ越した人、特にお年寄りや、大平、西方、壬生の人までまた栃木の中心街に来るようになった、と路面電車の効用を得々と語った。
中心街活性化策として路面電車建設案が浮上したとき、自動車の通行をどうするかをめぐって大きな議論が巻き起こった。
電車の利用促進と本領発揮には自動車交通制限が不可欠だ。
しかし、自動車交通を制限したら客足が減るとの意見も当然強かった。
そこで、フランスのストラスブール、ドイツのフライブルク、オランダのアムステルダムなど、ヨーロッパの伝統ある街で路面電車を中心街活性化の切り札として導入し予想以上の効果を上げている事例の研究が行われた。
中心街への自動車乗り入れを規制する一方、郊外に大駐車場をつくり自家用車から電車への乗換の便を考慮したパーク・アンド・ライドシステムの導入
地区内であれば乗り換える度に初乗り料金を支払う必要のない料金体系「共通運賃性」の採用、自家用車で市中心まで乗り入れ駐車場を利用するより電車を利用した方が安くなるような料金設定などの対策でヨーロッパの都市は電車利用者を増やし自動車至上の価値観を見事に切り替えていた。
自動車に脅かされないせいか、人々はのびのびと街を歩いている。
その姿は街並に何ともいえない温もりと活力を与えていた。
それで栃木もヨーロッパ式の中心街活性化を思い切ったのだ。
人口八万五千の街に路面電車は不要との意見もあったが、両毛線や東武鉄道に乗り入れて下都賀広域圏をネットする交通網とする事で存在意義は勿論、
沿線の利便性まで高めることに成功した。電車は栃木駅についた。
保存か取り壊しかで議論された栃木駅舎は、路面電車のターミナルとなっている。
発着する電車は違っても、駅舎は駅舎であるのがいい。
小山発栃木運動公園行きがやってきた。
ストラスブールの路面電車をモデルに開発された超モダンな電車は新しい高架鉄道にも蔵の街並にも田園風景にさえよく似合う。
しかも電車の座席に座る人の目の高さが街を歩く歩行者の目の高さに合っていて親しみやすい。
両毛線に乗り入れた電車はスピードを上げた。時速60キロくらいだろう。
路面電車というとのんびり走るイメージがあるが、LRT(Light Rail Transit)と呼ばれる新型の路面電車は、普通の線路を走る電車と遜色のないスピードで走ることができる。
JRの電車は止まらない片柳、下皆川、西山田などの停留所にも停車して電車は岩舟に着いた。
折り返し運動公園行きとなる。到着した小山行きJR電車から栃木市内に向かう人達が路面電車に乗り換えていった。
さて、ここからは現実の話。
路面電車は1キロメートルあたり1020億円で建設できるという。
しかしその財源をどうするか。また、路面電車敷設可能な道路幅の規制撤廃など越えなければならないハードルはある。
しかし運輸省も「飽和状態」と判断する膨大な自動車交通総量に対し道路渋滞解消や駐車場整備という局地的視点からの発想だけで十分かは疑問だ。
自動車と公共交通の共存を目指すパーク・アンド・ライド方式は、宇都宮は失敗したが
札幌、仙台など地下鉄を新規開設した自治体では「常識」とされ事実、筆者が仙台を訪れた際、知人は郊外の泉中央駅の駐車場に車をおいて地下鉄で中心街に案内してくれた。
神戸市は市営地下鉄十駅周辺に駐車場を確保することで約四千五百台のマイカーの中心部流入を削減できるとし「新たな道路整備に匹敵する効果」と評価したそうだ。
自動車交通総量の抑制、環境、福祉、中心街活性化など、様々な効果の期待できる公共交通LRT導入に建設省も運輸省も積極的だという。
先日自宅の換気システムの大掃除をしたらフィルターにべったりと黒いものが盛り上がるように付着していた。
運動公園で行う小学校の行事に、学校から歩いていくといわれると親としては交通事故に対する不安が先行する。
全国音楽祭サミット栃木大会に来演された池上惇京都大学名誉教授は都市デザインに不可欠のものとして「新しいキメの細かい交通体系」を挙げた。
堺屋太一経済企画庁長官も経済再生の文脈から「歩いて暮らせる街づくり」を提唱した。
碩学のこうした共通の認識は、交通が単に移動の手段にとどまらず住民の行動を規定し、生活の様式に関わる、文化的・経済的性格をもっているからに違いない。

栃木市の「中心市街地活性化基本計画策定委員会」は
どんな計画を提案して下さるか期待したい。

【参考文献】

1.特集:これからの都市交通と路面電車.鉄道ジャーナル30(12):27-69,1996
2.解説と提言:自動車偏重の交通体系.読売新聞8月28,1998
3.路面電車

を再び街に.産経新聞6月22,1998 など